4月4日(日)、派手な宣伝の中で発表された珠江デルタ(Pearl River Delta)をまたぐサイマルキャスト馬券発売(Simulcast Betting)は、香港にどの程度の利益をもたらすのだろうか。
マカオジョッキークラブ(MJC)と香港ジョッキークラブ(HKJC)は、長い間、あらゆることにつき話し合ってきたが、5月中に、両国政府の承認を受けた後、実現に向けて始動を開始する。
サイマルキャスト馬券発売により、香港ジョッキークラブの売上に組入れられるマカオの売上額は、1日あたり1億香港ドル(約15億4,000万円)になると見積もられている。
マカオ・ジョッキークラブには、取次ぎ機関として安定した手数料収入が入ることになるが、香港ジョッキークラブの最終的な利益については、詳細な分析が必要である。
例えば、この見積られた1億香港ドル(約15.4億円)の内、現在、香港の売上に直接入っているのはどの位だろうか、マカオのサイマルキャストが始まった場合、その資金流入の経路が代わっただけでは何も得るものはない。
一方、マカオのカジノにやってくる外国人は、マカオに居ながらにして香港の馬券を買う可能性があり、そうなれば売上は増えることになる。
マカオ・ジョッキークラブの競馬担当理事イアン・パターソン(Ian Paterson)氏は、過去、香港ジョッキークラブが勝馬投票口座の開設を認めなかったことに憤慨している外国のプロの馬券購入者を、マカオは締め出さないと明言している。
それどころか、マカオ・ジョッキークラブは、このような棚ぼた式の大口の顧客を諸手を挙げて歓迎する気配がある。
マカオ・ジョッキークラブには、パールリヴァー・デルタ(Pearl River Delta)の境界を越えてやってくる香港ドルや人民元の賭金を集め易くしてくれるサイマルキャストに対する期待がある。
タイパ(Taipa)競馬場の公認の勝馬投票代理店(Betting Agents)は、過去10ヵ月間、場外の競馬ファンからの電話投票を引き受けてきたが、今では、長い間、売上低迷に苦しんできたタイパ競馬場の起死回生を単独で支えている。
マカオ・ジョッキークラブは、賭金の多くが中国から流れ込んでいることおよび中国本土の他のマーケットと同様、中国の賭事市場とのビジネスが大きな成長をもたらす可能性があることを率直に認めている。
最も楽観的なシナリオとしては、サイマルキャストが急激に発展し、香港の売上げが増大し、マカオに多額の手数料収入が入ることである。しかし、この時、中国当局はどんな態度を取るのだろうか。
中国には、北京にワールドクラスの競馬施設が少なくとも1ヵ所以上あるが、中央政府がギャンブルの合法化を先延ばしにしていて、競馬施設が殆んど利用されていないため関係者は苦闘している。
中国当局は、中国本土からマカオへ、延いては香港へ目立たないように資金が流出する計画を、どのように見ているのであろうか。
中国本土からマカオのカジノや競馬産業に多額の賭金が流れていることは周知の事実であり、サイマルキャストについても、既定の事実として中国当局の暗黙の合意は折込み済みであろう。
もう一つの問題点は、主客転倒のシナリオである。
この賭事協定では、マカオが独自にリベートを提供して顧客を集める勝馬投票‐即ち、マカオにおける香港競馬の払戻金が、香港のプール・ベッティングの払戻金より高くなる現象‐の提供を認めることは、まずありえないだろうが、マカオの勝馬投票代理店が電話投票による場外の顧客を獲得するための手段として、独自のサービスを提供することまで制限できるという保証はない。
昨年の6月15日、サウスチャイナ・モーニングポスト紙(South China Morning Post)は、マカオの最近の売上躍進の理由が、新たに認可された勝馬投票代理店によるものであると報道したが、その時、パターソン競馬担当理事は、「勝馬投票代理店は、マカオのトータリゼーターと同額の払戻金を顧客に支払っていますが、彼らが顧客に提供しているサービスや条件の詳細については存じません」と語っている。
マカオのような非常に競争の激しい賭事環境では、勝馬投票代理店を通して、香港競馬に賭けたいと思う馬券購入者を勧誘するために勝馬投票代理店がどのような条件を提示しているかを語れる者がいるだろうか。
世界中のカジノは、大金を賭ける者を取り込み、彼らをテーブルに就かせるためにあらゆるサービスを提供している。なぜ、マカオの勝馬投票代理店が、それ相応のサービスを提供してはいけないのだろうか。
マカオの勝馬投票代理店は、目の前にいる顧客との取引には非常に熱心である。
もし、香港住民が、マカオの勝馬投票代理店を通した電話投票で、香港競馬に賭けようとした場合には、香港の賭博条例違反となる。
しかし、フェリーやヘリコプターでちょっとマカオに行けば、香港住民はマカオの勝馬投票代理店を通して賭けることができ、交渉次第でどのようなサービスも受けることができる。
そのサービスは、贈り物、マカオへの旅行費用、食事、宿泊費のようなものかもしれないし、馬券売上高に対するリベートであるかもしれない。
最も極端なシナリオでは、リベートの誘引力により、マカオの場外発売所経由の香港競馬の売上が、香港での売上と同等かあるいはそれ以上になる可能性も考えられる。
勿論、現実には、その実現性は殆んど考えられないが、マカオを経由する賭金が香港の売上のかなりの比率を占めることは起こりえないことではない。正に、2002年8月に行われた香港とマカオの話合いの時、香港ジョッキークラブの関係者が恐れていたのはこの現象であった。
この時、マカオ・ジョッキークラブは協定こそ結ばなかったものの、トータリゼーターについての控除率を低くすることを約束して、香港でマカオの窓口を開くことを認めさせようとした。
もつとも、香港政府は、賭金全体が1日1億ドル(約15.4億円)増加し、現在、日々発生しているのと同程度の売上減を補うことが出来るならば、特に、問題としないかもしれない。
この現象は、将来のサイマルキャスト馬券発売の取引において、マカオに交渉権を与える端緒になり得るのかもしれない。